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巨根べら3

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「竿、ハリ、なにより糸」
村の大人達も魚を釣るということはしない。
活きるための糧だから、一匹一匹釣っている悠長なことはしていられないのだ。
湖(うみ)では、竹杭をびっしりと刺し並べ魚の通り道を造る。
その行先は袋小路になっていて、さまざまな魚が行き場をなくして集まってくる。
コイ、ナマズ、ワタカ、イサザ、ヒガイ、ガンゾ、と種々雑多な魚がうじゃうじゃと獲れる。
勝蔵がまだガキのころ村の長老やわずかふたつみっつも年上だけでえらそばっている洟垂れが、これがなになにと、ひとつづつ名を教えてくれた。
その洟垂れは、大雨が出た後に「ホソ」にあふれ出た魚を手づかみするだけである。
小魚は天日に干して、煮炊き用の「出汁だし」に使う。
大きな魚は内臓と鱗を取り、素焼きして山で採り集めておいた辛い木の実をかけて食べた。
冬になると大きな魚は獲れないので、それまでに内臓に粟の蒸したものをいっぱい詰め込んだものを樽にびっしりと敷き詰め重石を乗せる作業が待っていた。それが洟垂れ小僧の仕事だった。
こうして冬がくる頃には、くさいくさい魚の保存食ができあがるそうで、活きた魚の代わりとなるのだった。
親のない勝蔵は育ててくれている老婆の小屋で、いろいろなことを教えてもらった。
「こうやって漬けた魚はなぁくさいけど本当に腐ってるのとはちがうんやで。いつまでも日持ちするし、腹くだしにもよう効くんやで」
顔中に溝刀で彫り込まれたような深い皺をいっぱいに広げて、教えてくれた。
根芋、粟、稗といった主食にこのくさい魚を食っていると、いつまでも元気でいられるんじゃと、また皺を深く刻みながらその本数を増やしていくのだった。
食うために魚を獲る。
そのことは生き抜く手段として理解している。
というより、人間が意識しなくても呼吸をするがごとく、勝手に心の臓が刻むがごとく血肉に溶け込んでいる。
しかし勝蔵は、魚を一匹一匹釣りあげる妙技に得も言えぬ奮い立つような高まりをおぼえるのだった。
「魚を釣る」ということを多少知っている爺がいる。
「まず竿じゃがこれは山になんぼでも生えている竹がよかろう。いくらでもあるさかい、できるだけ真っすぐなものを適当に切ってくりゃええ。それをな、次は真っすぐにせなあかん。たき火を節々に遠火で当てていって矯めていくんや。ハリは魚の骨がええ。それもコイの顎喉の骨が丈夫や、なんせタニシをかみ砕くほどやさかい」
「難儀なんは糸やなぁ」
爺もここで考え込んでキセルに火打石でボッと灯した。
「麻ちゅう木、知っとろうが。あの薄皮を煮詰めていくと細い糸がでける。それを撚り集めて縫うといまワレが着ている服になる。一番ええのは綿とか絹とかいう唐のほうから異人が持ち込むらしいが、わしゃみたこともないわい」
ざっと、この程度の知識を頼りに一匹の魚を一本の竿で、ハリで、なによりそれらが繋がった「糸」で釣ろうというのだった。
まだこの時期、あの美しい八千乃には出逢う術もない。
                                                      きっと、つづく。
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巨根べら②

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          「ドングリと大根」
勝蔵はいまみた、ばかでかい鮒に腰から下の骨がとけていまったかのようにへたり込んでしまった。
あれが、いつも村の長老がいっていた源五郎鮒の親玉なのか。
根が生えたような老獪鮒、巨大なこぶから幅広に盛り上がる体高には苔がびっりとへばりついている。
人づたえに「巨根べら」とおそれられ、崇め奉られすらしている巨大鮒なのか。
今までに経験したことのない、興奮とある種の高揚感につつまれるさなかに、こんどはこんな野っぱらには似ても似つかない美女の出現に二度腰の骨が砕けてしまっていた。
「いかがなされた、それにどうしてこんな草深い山奥に?」
「申し訳ございません。わたくしは従五位下(じゅうごいのげ)公家・飛鳥井家のひとり娘で八千乃(やちの)と申します。京洛中の戦乱戦火で屋敷は焼かれ、乱入いたし雑兵のてにより一家皆殺しのむごさの中、わたくしのみが難をのがれ框(かまち)の陰に隠れておりました」
「それがまたなぜこんなところまで」
「京からここまでなら、胸突き八丁とよばれる大きな峠をふたつもみっつも越え、ところどころはケモノ道しかないと聞き及んでおりますし、五里はたっぷりの山道でござんしょ」
勝蔵も公家の娘と聞いて、自然と寺子屋で習った「丁寧語」を口にしていた。
「京は私がまだ童のころから続いている松永弾正をはじめとする下剋上の不埒で町はぐちゃぐちゃだそうですね」
「憎っくき雑兵の顔はしっかり見ました。家財一切を売り払って路銀をつくり、仇討ちの旅に出たしだいです。ところが、町の荒廃は人々の生活・こころも荒廃させるのでしょうか、途中は盗賊追剥ぎの目に逢いました。逃げようとして倒れた拍子に懐から一分銀がこぼれ落ち、やからが我先にと拾い集めている隙に這う這うの体で逃げてきたしだいです」
ここまで一気に話すと、またくずれるようにへたりこんでしまった。
「せっかく逃げてきたのに、また汚い男はんにおおてしもうて・・・・・・・」
八千乃はさめざめと泣きだした。
「いや、たしかに汚い格好(なり)はしていますが、村ではこれが普段着。わしは勝蔵という名で、この村で生まれ育ち、けっして怪しい者ではございません」
勝蔵は釣りの道具もそのままに八千乃をかつぎあげ、わが小屋まで運ぶことにした。
背に負った八千乃は華奢に見えた外見とは裏腹に、柔らかく肉質感たっぷりの体をしていた。
薄汚れてはいるが汗と体臭が染みついた黒羽二重と思われる着物からは、いままでに嗅いだことのない牝匂が芳香のごとく振り撒かれる。着物の上からもわかっていたが、身体の線の細さのわりには胸の隆起が目立ち、それがいま勝蔵の背中圧迫してやまない。
おまけにその乳房の先端には二個の硬いドングリが勝蔵の背を刺す。
「あのぅ、胸のさきっぽにドングリを二個つけておいででしょうか?」
「まさか、ドングリだなんて。そんなおなごはんは神代の昔からいはったためしがありません。怖いから気が張り詰めてそれがさきっぽに伝染したんどす」
白い顔を真っ赤にして頬を膨らませた八千乃をみて、勝蔵の陽根は大根のように硬くなるのであった。
                                                                また、つづく

巨根べら

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「巨根べら」


<あらまし>
華やかな京のみやこのうわさはあくまでもうわさにすぎず、わずか山ひとつ隔てたこの地では人々の暮らしは貧困のきわみにあった。
勝蔵は、食うために魚を釣った。釣らなければ飢える、飢えないために釣る。が、しかしその中でどうあがいても食う本能にもまさる「怪物」、何が何でもコイツを仕留めたいと魂がゆさぶられる「巨根べら」に出逢う。
京のみやこではもう十年以上も下剋上のいさかいが続いているそうだ。そうだ、といえるほど勝蔵にとっては対岸の火事なのだが、逃げのがれてきた八千乃との偶然の出会いが、勝蔵の生きる道を変えてしまう、かも。かも。

「序」
油照りというそうだ。
池の水面も油を流したようにこじわひとつなく、べっとりと澱んでいる。
この夏は、雨もほとんど降らずひからびた大根の根尻尾が散乱しているような田畑が広がっている。
こんな日は、魚も餅をのどに詰めたように息苦しく、人間が恣意的に垂れたえさなど食うどころではなかろう。
勝蔵が自慢のカラスの羽根で作ったウキも、朝からピクリとも動かない。
したたり落ちる汗を袖口で拭おうと右腕を竿からはなしたとたん、目尻の端に大きくウキが動くのが移った。
「ヤッ!」
とあわてて合わせをくれたが、やはり一瞬遅かったのだろう、見事空振りであった。
(チッ!汗なんか拭うんじゃなかったな)
悔し紛れに舌打ちしたときであった。
目の前の水面が大きく揺れ動き、異様に盛り上がった「瘤こぶ」のような肩と、その割にはおちょぼ口の小顔をもつ巨大な鮒が、子供が前転びするようにガバッと浮き上がり反転した。
驚いた勝蔵が尻に敷いていたわら筵から滑り落ちると同時に、その巨大な鮒はうちわほどの尾びれを打ち振りながら水中に戻っていった。
小さい鮒ならいくらでも釣れる。
在所で世話になるお年寄りにあげて喜こんでもらえるのは鯉で、これも鯉の通り道さえ知っておけばそれほど難しくなく釣れる。
ぼてじゃこ、ハス、ワタカなどのジャコは焼いて塩をかけてもうまくないし、塩のほうが貴重だから釣らない。
鮒は口のとがった細い体のものがよく釣れるが、一度漁師がエリ網に入っていたという、幅広の鮒、「源五郎」というそうだが、こいつを見知ってからは、食う本能を忘れたかのように追い続けている自分がいる。
源五郎を釣ってみたい。
源五郎を釣ってみたい。
まして、いま目の前でさかとんぼりしていったのは、源五郎のなかの源五郎大主ではないのか。
ふんどしの前回しの寸はあったから二尺以上もあったろう。
「う、、、、、」
声にならぬうめきとともに後ずさりした勝蔵は、なにかにトンとあたって再び驚いた。
こんな草深い所に似ても似つかわしくない、妙齢の美女がいつのまにやら足音もなく佇んでいた。
いや、佇むというより病にでもおかされているのか足元は覚束なく、高価にみえる着物ははだけて白いふくらはぎや胸元の双胸がのぞけるような体たらく姿であった。                                   つづく
                             

プロフィール

釣ってんころりん

Author:釣ってんころりん
西田美明です。次世代に水と緑のメッセージをキャッチにアウトドアしています。宴(うたげ)も好きですので、「宴(えん)たけなわ」をもじって「縁(えん)たけなわ」で出会いを大切にしています。

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